浪費家の母親に依存され、人生に一度も期待を抱いたことのない主人公・宮田陽彩(みやた・ひいろ)に抜擢されたのは、三島有紀子監督作『幼な子われらに生まれ』(17)で鮮烈なデビューを果たし、その他『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)で、報知映画賞、ブルーリボン賞他、数々の映画賞を受賞し、その演技力が高く評価される南沙良。大河ドラマ「光る君へ」(NHK)や韓国ドラマのリメイク「わかっていても the shapes of love」への出演でも注目を集める一方、映画『この子は邪悪』(23)などの作品で心に傷を負ったり陰のあるヒロインをつとめてきた奥深さで、シビアな生い立ちを背負った少女が自らの足で人生を踏み出す勇気を得ていく様を密やかに繊細に表現する。
父親から性暴力を受け、母親からは売春を強要される過酷な家庭で育った江永雅(えなが・みやび)を引き受けたのは馬場ふみか。映画、ドラマなど数々の作品に出演する一方で雑誌「non-no」の専属モデルとして幅広いファンから支持され、映画『恋は光』(22)でヨコハ マ映画祭最優秀新人賞を受賞、その後も『コーポ・ア・コーポ』(23)、『愛に乱暴』(24)などでも複雑な境遇の人物に取り組んできた中、癒えない傷を抱えながら生まれた環境に復讐するべく生きのびようとする役どころに身を投じ、南との共演でしなやかなシスターフッドを築き上げた。さらに過干渉の母親から逃れたい一心で新興宗教にのめり込んでいく木村水宝石(きむら・あくあ)には、フィギュアスケーターでもある本田望結が扮し、自分自身と母親との癒着にもがく生き様を体現。三者三様の「不幸」がもつれ合うアンサンブルを繰り広げる。
また、宮田と江永が働くコンビニの同僚・堀口を基俊介(IMP.)、江永の前に現れる謎の青年を伊島空、木村の母親を池津祥子、宮田の母親を河井青葉が演じ、それぞれの「正しさ」を通して世の中の割り切れなさをあぶり出す。