12日の殺人

La Nuit du 12

12日の殺人

La Nuit du 12

2024年03月15日公開

Director

ドミニク・モル

Cast

バスティアン・ブイヨン
ブーリ・ランネール
テオ・チョルビ
ヨハン・ディオネ
ティヴー・エヴェラー
ポーリーヌ・セリエ
ルーラ・コットン・フラピエ

OFFICIAL WEBSITE

Introduction

「悪なき殺人」ドミニク・モル監督最新作!
テーマは“未解決事件”ー

思いもよらぬ様々な「偶然」が重なって起きるある殺人事件を描いたサスペンス『悪なき殺人』の鬼才ドミニク・モル監督が、新たに挑んだテーマは「未解決事件」だった。そして、この『12日の殺人』は、フランスのアカデミー賞に相当するセザール賞(2022)で、最優秀作品賞、最優秀監督賞をはじめ、見事最多の6冠に輝いている。
フランス南東の地方都市サン=ジャン=ド=モーリエンヌで、10月12日の夜、帰宅途中の21歳の女子大生が何者かに火をつけられ、翌朝焼死体という無惨な姿で発見される。そして、地元警察でヨアンを班長とする捜査班が結成され、地道な聞き込みから次々と容疑者が捜査線上に浮かぶも、事件はいつしか迷宮入りとなってしまう…
「未解決事件」、この言葉に人はどこか強く引きつけられる。それは、謎を解き明かしたい、真実を知りたいという、人間の根源的な欲望を刺激するものだからかもしれないが、そのテーマは、実際に起こった事件をもとにしたものであれ、完全なるフィクションであれ、これまで数多くの優れた映画監督たちをも虜にしてきた。デヴィッド・リンチの「ツイン・ピークス」(1990−91)をはじめ、ポン・ジュノの『殺人の追憶』(2003)、デヴィッド・フィンチャーの『ゾディアック』。最近では、あのヴィクトル・エリセが31年ぶりに撮った新作『瞳をとじて』も、未解決事件を扱ったものだ。
『12日の殺人』は、中でも、モルがフィンチャーの映画でもっとも好きだと公言している『ゾディアック』のように、行き詰まるような犯人探しだけでなく、事件にのめり込むうちに、いつしか私生活にも影響を受けていく捜査員たちの日常をも丁寧に掬い取った優れた人間ドラマにもなっているのだ。
いや、それだけではない。映画の後半、男所帯の捜査チームに、何人かの女性が加わるのだが、班長のヨアンの相棒となる女性の捜査官の、「罪を犯すのも捜査するのも男性って変」という台詞にあるように、この映画は、「マチズモ(男性優位社会)」、「イントキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」、「マンスプレイニング(男性の女性を見下した態度)」といった、極めて現代的なフェミニズム的テーマも扱っているのだ。
モルは、この映画を制作するに当たって、ポーリーヌ・ゲナが1年にわたるベルサイユ司法警察での取材をもとにした『18.3: Une année à la PJ(刑事訴訟法18.3条:司法警察での1年)』を原案に仰いだ。また、モル本人も実際にグルノーブル警察に赴き、一週間かけて捜査員たちの日常をつぶさに観察した。その結果、この映画はどんな刑事ものにも増して、リアリティ溢れる作品になっている。

セザール賞最多6冠!
数々の映画賞を受賞したスタッフ・キャストによる壮大なスリラー

脚本は、モルと、モルの出世作となった『ハリー、見知らぬ友人』(2000)からコンビを組むジル・マルシャンが担当し、見事セザール賞の最優秀脚本賞を受賞した。因みに、マルシャンは、やはりフランスで有名な未解決事件を描いたNetflixドラマ「グレゴリー事件: 迷宮入りの謎に迫る」(2019)の監督でもある。
音楽は、アルチュール・アラリの『汚れたダイヤモンド』や『ONODA 一万夜を越えて』(2021)で知られるオリヴィエ・マルグリとの初タッグとなった。マルグリは、もともとポップ・ロックバンドで活動していた経緯もあり、劇伴だけでなく、劇中、事件を解く鍵の一つとなる、架空のバンドの1980年代のエレ・ポップ曲「Angel in the Night(夜の天使)」も彼の作である。
非番の日に自転車に乗ることで何とか精神の均衡を保っている班長のヨアンを演じたのは、『悪なき殺人』(2019)でも警官役だったバスティアン・ブイヨン。フランスでは、『私たちの宣戦布告』(2011)のヴァレリー・ドンゼッリや、『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』(2013)のセバスチャン・ベトベデールとのコラボで知られる俳優だが、この役でセザール賞の最優秀新人賞に輝いている。

ヨアンの相棒で、私生活に問題を抱えているマルソー役に、日本では『素顔のルル』(2013)や『あさがくるまえに』(2016)などで知られるブーリ・ランネール。ラネールも、この演技で、セザール賞の最優秀助演男優賞を受賞している。
『12日の殺人』は、セザール賞最多6冠の他に、リュミエール賞の最優秀作品賞、最優秀脚本賞、ベルギーのマグリット賞の主演男優賞(ブーリ・ランネール)、最優秀外国映画賞なども受賞している。また、フランスの映画情報サイト「AlloCiné」では、プレス枠で星4.4、観客枠で4.0の高スコア。評価の厳しさで知られる新聞「Libération」紙や、映画批評誌「Positif」は5.0の最高評価を与えている。

Story

2016年の10月12日の夜、グルノーブル署で、引退する殺人捜査班の班長の壮行会が開かれていた頃、山あいのサン=ジャン=ド=モーリエンヌの町で、21歳の女性クララが、友人たちとのパーティの帰り道、突如何者かにガソリンをかけられ火を放たれた。そして、無残にも彼女は翌朝焼死体で発見される。すぐに後任の班長ヨアン(バスティアン・ブイヨン)率いる新たな捜査チームが現場に駆けつける。クララが所持していたスマートフォンから、彼女の素性が明らかになり、ヨアンたちはクララの自宅を訪ねた。母親に娘が殺害されたことを伝えるが、ヨアンは、その時ふと目にした生前のクララが愛猫とともに写った写真の映像が頭から離れなくなる。捜査会議の席で、ヨアンの相棒のマルソー(ブーリ・ラネール)が、ジャンヌ・ダルクのように火あぶりにされるのはいつも女だと呟く。

クララの親友のステファニーの協力などもあり、クララと交際歴のあったバイト先のウェズリー、ボルダリングジムで知り合ったジュール。そしてあろうことか彼女を「燃やしてやる」というラップを自作していた元カレのギャビなどが捜査線に上がっては消えていった。だが、クララと関係を持っていた男たちは、一様にして彼女が奔放な女性だったことを示唆していた。

そんな折、匿名の人物から、クララに火をつけた際のライターと思しきものが署に送り付けられてきてチームはどよめく。早速犯行現場で張りこんでいると、ある人物が現れた。それは近所の菜園小屋に住む無職のドニで、彼は捜査線上に全く情報が上がっていない男だった。そして、彼もクララと関係を持っていたと言う。こうしてクララの奔放な男性関係が次々と明らかになる中で、ヨアンは、ステファニーになぜドニのことを知らせなかったのかと迫る。ステファニーはヨアンの言い方に納得がいかなかった。これではまるでクララの方に非があったように思えてしまったからだ。何故彼女が殺されたのか、それは女の子だったからだと、ステファニーはヨアンに詰め寄った。

ヨアンは、捜査や生前のクララのことを考えて夜も眠れない日々が続いたが、一見いつも沈着冷静なヨアンが、それでも何とか精神の均衡を保っていたのは、非番の時にヴェロドロームで自転車を走らせることによってであった。一方、ついカッとなる癖のある同僚のマルソーは、夫婦関係に問題を抱え苦しんでいた。そんな彼を察し、ヨアンはマルソーを自宅に招くのであった。

そして、突如捜査は動いた。クララの殺害場所に、なぜか血のついたTシャツが置かれていたのだ。DNA鑑定から、それはDVで逮捕歴のあるヴァンサンだということがわかった。彼もクララと交際歴があった。結局、彼にもアリバイがあったのだが、ヴァンサンのあまりに太々しい態度に怒りが収まらなくなったマルソーは、彼の家を訪ね暴力をふるってしまい、そのまま異動となってしまう。そして、捜査班も解散となってしまった。
それから3年後。ヨアンは女性の判事(アヌーク・グランベール)に呼び出され、捜査の再開を希望される。その間もずっとこの事件のことが頭から離れなかったヨアンは、新たなチームを作り再捜査に乗り出すことになった。男所帯だったチームに、今度は女性捜査官のナディア(ムーナ・スアレム)も加わり、クララの三周忌に彼女の墓で張り込みをすることになった。果たして、仕掛けていた隠しカメラに写っていたのは…。