愛されなくても別に

Love Doesn’t Matter to Me

愛されなくても別に

Love Doesn’t Matter to Me

2025年07月4日公開

Director

井樫彩

Cast

南沙良
馬場ふみか
本田望結
基俊介 (IMP.)
伊島空
池津祥子
河井青葉

OFFICIAL WEBSITE

Introduction

 「愛してる」の一言が苦しかった--。
毒親のもとで生まれ育ち、人生を奪われてきた3人の大学生。その愛情はすべてを許す魔法か、それとも地獄か。彼女たちが選んだ未来とは?
 
 原作は2021年に第42回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃の同名小説。テレビアニメ化やコミカライズも大ヒットした「響け!ユーフォニアム」シリーズでお馴染みの書き手による、新時代の青春ストーリーが、注目の若手監督・井樫彩の手で映画化された。親の過干渉、虐待、性暴力など家族間で生じる問題から社会のひずみに切り込みつつ、その世界をサバイブする女性たちの清々しさと、「不幸であることである種の優越感を」抱いていた状態からの脱却までを鮮やかに描く。それは「被害者」という言葉には収まりきらない生身の個々の姿であり、不幸であることによって他人より優位に立とうとする自分の弱さも彼女たちは知っている。この映画はそんな彼女たちを、哀れみという束縛から解放するのだ。 


 浪費家の母親に依存され、人生に一度も期待を抱いたことのない主人公・宮田陽彩(みやた・ひいろ)に抜擢されたのは、三島有紀子監督作『幼な子われらに生まれ』(17)で鮮烈なデビューを果たし、その他『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)で、報知映画賞、ブルーリボン賞他、数々の映画賞を受賞し、その演技力が高く評価される南沙良。大河ドラマ「光る君へ」(NHK)や韓国ドラマのリメイク「わかっていても the shapes of love」への出演でも注目を集める一方、映画『この子は邪悪』(23)などの作品で心に傷を負ったり陰のあるヒロインをつとめてきた奥深さで、シビアな生い立ちを背負った少女が自らの足で人生を踏み出す勇気を得ていく様を密やかに繊細に表現する。
父親から性暴力を受け、母親からは売春を強要される過酷な家庭で育った江永雅(えなが・みやび)を引き受けたのは馬場ふみか。映画、ドラマなど数々の作品に出演する一方で雑誌「non-no」の専属モデルとして幅広いファンから支持され、映画『恋は光』(22)でヨコハ マ映画祭最優秀新人賞を受賞、その後も『コーポ・ア・コーポ』(23)、『愛に乱暴』(24)などでも複雑な境遇の人物に取り組んできた中、癒えない傷を抱えながら生まれた環境に復讐するべく生きのびようとする役どころに身を投じ、南との共演でしなやかなシスターフッドを築き上げた。さらに過干渉の母親から逃れたい一心で新興宗教にのめり込んでいく木村水宝石(きむら・あくあ)には、フィギュアスケーターでもある本田望結が扮し、自分自身と母親との癒着にもがく生き様を体現。三者三様の「不幸」がもつれ合うアンサンブルを繰り広げる。
 また、宮田と江永が働くコンビニの同僚・堀口を基俊介(IMP.)、江永の前に現れる謎の青年を伊島空、木村の母親を池津祥子、宮田の母親を河井青葉が演じ、それぞれの「正しさ」を通して世の中の割り切れなさをあぶり出す。

 監督は若干29歳の新鋭・井樫彩。専門学校の卒業制作として作り上げた『溶ける』(16)が第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオンに日本人最年少で正式出品され、続く劇場デビュー作の『真っ赤な星』(18)も、レインダンス映画祭コンペ部門にこちらも長編映画としては日本人最年少で正式出品。近年は「復讐の未亡人」や「けむたい姉とずるい妹」などドラマの演出でも頭角を表し、20代ながら映像業界の中心で存在感を示す中、本作は待望の長編新作映画となる。生きるために「不幸」に陥るしかなかった女性たちが自力でそこから旅立つまでの内なる戦いを、既成の価値観に落とし込むことなく等身大の目の高さで丁寧に見守った。 

 井樫は「映画にはならないような、劇的とは程遠い、表現という手段からこぼれ落ちてしまうような小さな傷や痛み。それらをこぼすことなく映画に閉じ込めたい、と思いながら制作しました。」と語り、「私も学生時代に陽彩と同じく“わたしの苦しみは大したことじゃないんだな”と思ったから。でも、苦しみや痛みは、大きさで測れるものではないし、誰かと比べるものではないと今はわかっている。 “愛されなくてもいい”と言いながらも他者の手を取り、握ってしまうような……『心』は一辺倒ではない。愛も苦しみも、とてもグラデーションのあるものだと思うから。」と自身の思いと本作を重ねる。

 子は親を選べない。だが自分の生き方は自分で決められる。それを止めることは誰にもできない、たとえ家族でさえも。愛が呪いになるならば、望まない愛からは逃げてもいい。令和のリアルを生きる彼女たちの、人生を賭けた青春逃走劇が、行き詰まった現実に風穴を開ける!

Story

 宮⽥陽彩は、⾔うなれば「クソ」のようなキャンパスライフを送っていた。奨学金を受けて⼤学に通い、それ以外の時間は同居する浪費家の⺟(河井青葉)に代わって家事とコンビニでのアルバイトに明け暮れる日々。学費と家賃を稼ぎ、生活に追われて10代最後の年が過ぎてゆく。大学生らしくお洒落をしたり遊んだりする時間もお⾦もない。でもすべては大卒の資格を得て就職するためと割り切っている。なぜなら期待していないから。親にも、友⼈にも、そして自分自身の人生にも。

 いつも通り早朝にバイトを終え、⺟のために朝食を作ってから登校した宮田は、同級⽣の江永雅(馬場ふみか)の父親が殺人犯であるという噂を耳にする。金髪にブルーをのせたヘアカラーと濃いアイメイクがトレードマークの江永はバイト先の同僚でもあったが、地味な陽彩とはあまりにも対照的で、⼀度も会話を交わしたことはなかった。

 バイト中の江永に初めて話しかけ、面と向かって噂の真偽を問い正す宮田。「幸せな人とはわかり合える気がしない」と打ち明けた宮田に、「てことは、宮田は不幸なんだ」と返す江永。五歳年上の江永は幼い頃に父親から性暴力を受け、離婚して生活に困窮した母親からは、⾝体を売るよう強要されていたという。あまりにも壮絶な人生を「ネタ」だと言って事も無げに語る彼女を前にして、自分のほうがまだマシだと言い聞かせつつ、不幸の大きさを比べて敗北を感じている宮田がいた。

 一方、大学の同級生である木村(本田望結)もまた、母親の過干渉に苦しんでいた。十分な仕送りを貰っている木村が、宮田に紹介を頼んでまでコンビニで働くのは、「宇宙(コスモ)様」なる新興宗教にのめり込んでいるから。木村にとってそこは母の束縛から逃れて自由になれる唯一の居場所だったのだ。明らかに怪しげな気配を感じつつも、宮田は木村が自らの意志で選択したその行動を否定することができない。

 ある⽇、両親が離婚して以来会っていなかった⽗が宮田を訪ねて来る。再婚を機に養育費の支払いを終わりにしたいと告げる父。母は養育費の存在を隠していたのだ。それだけでなく、宮田の奨学金まで使い込んでいた。毎朝欠かさず聞かされてきた母の「愛してる」という言葉が嘘だったとは思わない。それでも、最後の一線だけは守る人だと信じていたのに。「私、このままだとお⺟さんを殺しちゃう」

 実家を⾶び出した宮⽥は、「うちに住めばいいじゃん」という江永の言葉に誘われ、女二人の共同生活がスタートした。不幸をきっかけにつながった仲だったが、二人は自分たちの手でお互いが安らげる場所を作り上げていく。誰からも脅かされずにぐっすりと眠れる生活。それは血のつながった家族からは決して得られなかったかけがえのない時間だった。

 そんなとき、宮田と江永は木村に頼み込んで「宇宙(コスモ)様」に会いに行く。自分の大切な世界を二人と分かち合えて嬉しそうな木村。しかしそこには思わぬ事態が待ち受けていた。木村さんは恵まれている、と諭す宮田に木村は問う。「不幸って、他人と比較できることじゃなくない?」。その言葉は自分の本心として宮田に突き刺さる。不幸という拠り所に依存していた過去の自分にはもう戻りたくない。「私は、私の人生を生きる」。たとえ他人に愛されなくてもーー。

Poster

愛されなくても別に